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Fairy Melody ~私はピアノ~

Fairy Melody ~私はピアノ~

番外公演vol.8

2016年4月22日(金)・23日(土) 御茶ノ水KAKADO
【作・演出】息吹肇
【CAST】

  • 柚月かな
  • 長谷川彩子
  • 長紀榮
  • 春田奨
  • 高安有紀
  • 西村守正
  • 小谷陽子(製作委員会)
  • 江島志穂
DVD販売中

あらすじ

会社員の明日香は、祖母の八重の意識が戻らないのを心配している。明日香の従姉妹のさくらは、地元の戦争の歴史を調べている時、疎ましく思っている父親から、亡くなった祖父の兄(幸作)が戦時中に書いた日記を渡される。
幸作の友人の春樹は八重の許嫁だった。幸作の妹の花江と共に4人で仲良く過ごしていたが、春樹と幸作の出征でその日常は失われた。
そしてある日、明日香の前に春樹の霊が現れ、八重に伝えたいことがあって戻ってきたと告げ、今は閉校になった春樹と明日香が卒業した小学校に一緒に行ってくれと言う。

江島志穂
春田奨
長谷川彩子
高安有紀
長紀榮
西村守正
柚月かな
小谷陽子
小谷陽子
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コメント

この作品は、2015年4月に発刊された「それぞれの道~33のドラマ~」(コールサック社)の中にエッセイを載せていたシンガーソングライターのmemuさんのtwitterのアカウントを息吹がフォローしたことから始まった。myria☆☆さんとのコラボの話があったことから、同じようにコラボ公演が企画できるのはないかと思い、連絡を取ってお話をしたところ、「是非やりたいです」と言われたので、本格的に企画することになった。
この時点でmemuさんはまだ発表された音源はなく、ライブハウスでの活動のみであり、僕が最初に見せていただいたのは歌詞だけだった。その後、memuさん自前の音源をいただいたが、これまでのFBIの作品の方向性とは大きく異なるテイストで、どうやって形にすればいいのかかなり悩んだ。構想は二転三転したが、歌詞の内容もさることながら、メロディも含めて全体に漂うノスタルジックな感じを手掛かりに作ることにした。結果、FBIとしては初めての、過去の特定の時代を描く作品になった。

キャストは、お馴染みの陽子さん、あやさんと、前年の「True Love」で印象的な演技を見せてくれた西村さんの出演が早くに決まった。また、西村さんのご紹介で有紀ちゃんが決まった。ヒロインである明日香役は、この少し前にFacebookで再会を果たしていたかなちゃんにお願いすることになった。彼女は、「True Love」の初演以来、約3年半ぶりの参加である。「True Love」再再演の出演者であるいちさんにも声をかけていたのだが、都合により出られなくなってしまった。その代わり、彼女が紹介してくれた若手の女優さんが3人いたので、オーディションで江島さんが決まった。学徒動員で戦死した魂である春樹役は、周りに適任の役者がいなかったため、当初からオーディションのつもりであった。結果、のり君と春君の2人が残ったが、実力が拮抗してどちらとも決められず、結局役を増やして2人とも出演してもらった。これが作品の幅を広げることにつながったのでよかったと思う。

今回の座組は人見知りの人が多く、最初はなかなか打ち解けなかったが、有紀ちゃんの実年齢が見た目とあまりにもかけ離れているということが明らかになった後から、徐々に打ち解けてきて、最後はかなり仲良くなっていた。その分、稽古場でも、みんなでシーンに関してのアイディアを出し合ったり、小道具や衣装に関して意見を言い合ったりすることも増え、それが作品のクオリティを高めることにつながった。戦時中を取り上げることもあり、リアリティが大切になるので、その辺には最大限気を遣った。戦中の時代の登場人物を演じたのり君と春君は、当然のように坊主頭になった。

会場がライブハウスということで、今回も色々な制約があった。今回もそでが作れず、上手側は楽屋からの階段を使うことになった。その導線でかかる秒数を測り、ぴったりのタイミングに出るにはいつスタートすればいいかを確認する作業が必要になった。また、下手側は役者の待機スペースを仮設したが、三六1枚分の広さしかなく、結構窮屈だったようだ。
また、ステージが狭く、ピアノのスペースも必要だったため、今回も演技スペースを拡張したが、それでも動きがだいぶ制約された。この拡張分と、仮設の待機スペースのため、客席が狭くなるという弊害があった。
しかし、KAKADOは普通のライブハウスとはひと味違った内装で、それが芝居の雰囲気に合っていたと思う。一方で、照明の色数の制約や、そもそも灯体数が少ないため、舞台がやや暗くなってしまった面もある。劇場ではない以上、致し方のないことではあるが。

久し振りに2日間で3回公演を行ったが、キャパが少なかったため、特に初日が超満員となり、お客様に狭くて暑い思いをさせてしまった。昨年のFBI出演者が1人開演間際に来てくれたが、入れずに帰ってもらったりもした程である。
大入りだったのは有り難かったが、観劇環境ということから考えると、やはりライブハウスはあまり適していないとも感じた。

役者は今回も概ね好演だった。
戦時中の人物である春樹、幸作、花江、八重は、その時代の人間に見えることが絶対に必要であったが、特にのり君、春君、有紀ちゃんは時代感が出ていた。春君のお辞儀の時の身のこなしは、本当に見事であった。また、のり君は老舗の新劇の劇団出身ということもあり、特に台詞術はさすがと思わせるものがあった。PVを撮影に来た小塚ツルギさんから「ト書きの一言一句に忠実」という評価をもらった程、脚本に忠実に、端正に役を演じた。陽子さんの八重は、20から90まで演じなければならないという、殆ど大河ドラマのような設定だったので、その点で特に苦労したようである。ただ、彼女の昭和な顔立ちは、時代感をうまく醸し出していた。
今回の出演者中最年少の江島さんは、設定上は最年長の役を演じたが、落ち着いた存在感を出していた。小屋入りの朝、迷子になって到着が大幅に遅れたのはご愛嬌である。明るい設定の役が多かったあやさんは、今回は途中で役の方向性を変更したこともあり、結構苦しんでいた。その父親役の西村さんは、自殺未遂の経験がある中年男性の役どころで、雰囲気を出すために髭を少し生やしてみるなど、あくまでもリアリティを追求する姿勢が光った。ただ、この父と娘のシーンが少なかったこともあり、やや印象が薄くなってしまったのも事実である。
かなちゃんは、主役の経験が多いこともあり、さすがの安定ぶりだった。八重が老人になって出てくるシーンでは、稽古の時から一貫して涙を流していた。また、春樹と最初に会うシーンで、稽古中にのり君が台詞を一瞬忘れる程の目力を発揮した。

今回は、芝居と演奏をより密接にリンクさせるため、ラストの曲以外は、演奏中に登場人物がサイレントで動くようにした。江島さんと西村さん以外の登場人物が全て関係していたので、稽古中は曲を流しながら、色々なアイディアをみんなで練ったものである。それぞれの引き出しの多さが試されるシーンだったが、これは好評だった。戦時中の4人は勿論だが、かなちゃんとあやさんがかなり生き生きと演じていたのが印象的だった。
特に、オープニングの「雨」に合わせて全員が代わる代わる傘をさして登場するシーンは、想像以上にお客様にインパクトを与えたようである。

観劇環境が悪かったにもかかわらず、お客様にはかなりのご好評をいただいた。毎公演客席ですすり泣きが聞こえ、中には号泣(?)する人もいた。アンケートの回収率もよかった。「戦争もの」は受け入れられやすいので、ある程度は予想していたことだったが、こんなにも手応えがあるとは正直思っていなかった。
学徒兵の役を演じるためにのり君が「わだつみのこえ記念館」に行ったのだが、そこの職員の方が見に来て下さった。後日、ご挨拶に行ってお話を聞いたが、ここでもお褒めをいただいた。本当の学徒兵の資料を集めて展示しているような施設の方に認められたということは凄いことだと思ったし、嘘っぽいと感じられなかったということの証でもある。正直ホッとした。

記念館の方も「是非またたくさんの人に見てもらえる形で上演して下さい」と仰って下さったが、本番を見た他のお客様からも再演を熱望する声が多数寄せられた。本番直後にこんな声をいただいたのは初めてだった。
そこで、memuさんともお話をして、2017年5月に劇場で再演することを正式に決定した。こんな幸せなことはない。これが新たな僕の代表作になる可能性もある。
初めてのピアノ演奏とのコラボレーション、実際の時代を題材にした作品と、初めて尽くしで手探りな状態だったが、とても大きなものを手にする結果となった。先の戦争の歴史を何らかの形で伝えていきたいと思っていた僕としては、それをひとつの形にすることができ、しかも好意的に受け入れてもらえたことは、今後に向けての新しい方向性のひとつを見出すと同時に、自分の創作活動に対しても大きな自信を与えてくれる、とても幸福な作品になった。
その意味でも、決して忘れることのできない公演である。

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